男性型脱毛症(AGA : Andro-Genetic-Alopecia)治療に使われるプロペシアは、元々は前立腺肥大症のお薬「プロスカー(Proscar)」でした。ここでは、プロペシア開発の歴史と前立腺肥大症、そしてAGAとの関係を探っていきましょう。そしてAGAと前立腺肥大症に、何か因果関係はあるのでしょうか?
プロペシア開発の歴史
プロペシアの成分名は「フィナステリド」です。このフィナステリドは元々は前立腺肥大症の治療薬として開発された経緯があります。AGAや前立腺肥大症、そしてニキビなどの症状に対し、1950年代からメルクアンドカンパニー(Merk & Co)が男性ホルモンの研究を開始しました。その後、1960年代後半に5α還元酵素(還元酵素をリダクターゼとも言います。)がテストステロンをより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変化する事を研究で突き止めました。この研究結果を基に、「5αリダクターゼを阻害してDHTの生成を妨害してしまおう。」と研究者は考え、その結果フィナステリドという化合物が、5αリダクターゼの阻害に有効だと発見され1997年にアメリカ食品医薬品局(FDA : Food and Drug Administration)の認可を受け、商品名「プロペシア」として販売が開始されました。では同じ成分フィナステリドである前立腺肥大症の治療薬「プロスカー」とAGA治療薬「プロペシア」は何が違うのでしょうか?答えは薬品の含有量が異なります。高用量がプロスカー、低用量がプロペシアです。
前立腺肥大症とAGA
前述しましたがAGAと共に、前立腺肥大症の原因物質もDHTでした。では前立腺肥大症とは何でしょうか?前立腺肥大症(BPH : benign-prostatic-hyperplasia)に明確な定義というのが存在しませんが、一般的には男性の尿道近くに存在する前立腺が肥大することによる尿障害(飛び散ったり、急な尿意など)と言えるでしょう。前立腺肥大症の危険因子の第一は加齢です。それ以外には、遺伝性、食事生活、肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症などです。ちなみに、大豆に含まれるイソフラボンや、ゴマに含まれるリグナンは前立腺肥大を抑制する効果があるともに5αリダクターゼを阻害する効果もあるようです。
前立腺形成とDHT
前立腺は胎生12週に形成が開始されます。精巣からテストステロンが生成され、前立腺内の5αリダクターゼと結びつきDHTに変換され前立腺が形成されていきます。プロペシアの主成分フィナステリドに妊娠中や妊娠の可能性のある女性が触れたり、授乳中の女性が服用したりすると生れてくる子供の性器の形成に影響がでてしまうためプロペシアを触ったりしてはいけません。
AGAと前立腺肥大症に因果関係はあるの?
現在、AGAと前立腺肥大症に直接的な因果関係はありません。しかし、AGAと前立腺肥大症を併発する可能性も無い訳ではありません。前立腺肥大症を診察する際に血中のPSA値を計測しますが、プロペシアなどの5αリダクターゼ阻害薬はこの値を下げてしまう効果があります。そのため正確な計測のためには泌尿器科の医師にはプロペシアでAGA治療をしている旨は必ず伝えましょう。ちなみに、プロペシアは5αリダクターゼ阻害薬であり、成分のフィナステリドの前立腺肥大症における効果や根拠も認められてはいますが、日本においてはフィナステリドはAGAのみ認可されているもので、前立腺肥大症には使用されることは残念ながらありません。
まとめ
AGAと前立腺肥大症の原因の一つが、テストステロンが5αリダクターゼと結びつき、強力になったジヒドロテストステロンDHTでした。プロペシアは5αリダクターゼを阻害し、テストステロンがDHTに変換されるのを阻害します。DHTは、頭皮においては毛母細胞に働きかけ、TGF-βを生成し毛母細胞に細胞死アポトーシスを与え、ヘアサイクルに悪影響を与えます。一方で前立腺においてDHTは、前立腺細胞内で受容体と結びつき、増殖因子の遺伝子を転写し、前立腺細胞を増殖させ前立腺ガンにもDHTが影響を与えていると言われています。毛母細胞と前立腺細胞では、同じDHTでもその振る舞いは異なることが分かりました。もしかすると、プロペシアには前立腺肥大のリスクを低減させる効果があるかも知れませんね。また、ゴマや大豆に含まれるイソフラボンやリグナンが、前立腺肥大のリスクを低減させる効果がある事も分かりました。イソフラボンやリグナンで、AGAを予防する効果があります。特にリグナンは毛髪の健康状態が良くなり、美容に気を遣う女性にも注目を浴びる成分です。食事では豆腐や大豆、ゴマを多用したサラダなどを摂って、ジョギングなどの運動で頭皮の血流量を増やし、それでもダメならプロペシアの処方を受けましょう。プロペシアにはDHT生成を阻害する効果があります。